株式会社アセットコミュニケーションズ 代表取締役 近藤統嗣
はじめに
1. Future of Work
「現代の労働者の60%は1940年には存在しなかった職業についている」。これはMIT教授のデイビッド.H.オーター氏らの複数年にわたる「未来の仕事に関するタスクフォース」の調査結果※1で紹介されている内容です。2000年からの20年間で55万人から200万人へ約150万人就業者数が増加し、国内で最も就業人口を増やした介護職も1963年に誕生した職業でした。
考えてみるとWEBエンジニアやゲームクリエイターもごく最近登場した職業です。
今の子供にとって、駅の改札で切符を切る駅員さんがいることは想像できないだろうし、近い将来の子供たちにとって、テレビ(地上波)やテレビ広告もイメージできなくなるでしょう。
このように時代の変化、テクノロジーの進展により、減少する職がある一方で、新しく生まれる職も登場します。
生成AI登場後のレポートではゴールドマンサックスが3月に公表した報告書※2で3億人分相当の仕事を置き換える可能性がある(アメリカでは現存の職業の約3分の2が生成AIによる影響を受けると見られる。)─としています。
生成AIの登場から遡ること10年前の2013年、英オックスフォード大学のマイケルA.オズボーン氏とカール・ベネディクト・フレイ氏は、米国において10~20年以内に労働人口の47%が機械に代替されるリスクが70%以上という推計結果を発表※3。この論文は世界中に大きな衝撃を与えました。AIと仕事について議論を巻き起こし、これを契機に世界中で「AIと仕事」に関する研究が一種のブームとなり、日々、新しい研究成果が発表されています。
国内においても野村総合研究所が2015年、上述の2人との共同研究で、国内601種類の職業について、それぞれAIやロボットなどで代替される確率を試算。その結果、10~20年後に、日本の労働人口の約49%が就いている職業において、それらに代替することが可能との推計結果が得られたと発表。※4
その中に、AIやロボット等による代替可能性が高い100種の職業の中に「ビル施設管理技術者」「清掃員」「警備員」など、ビルメンテナンスの中心的な業務も含まれています。
1:デビッド.H. オーター他(2022)「The Work of the Future: Building Better Jobs in an Age of Intelligent Machines」
2:Jan Hatzius 他(2023)「The Potentially Large Effects of Artificial Intelligence on Economic Growth 」
3:カール・ベネディクト・フレイ+マイケルA.オズボーン (2013)「The Future of Employment::HOW SUSCEPTIBLEAREJOBSTO COMPUTERISATION?」
4:総務省(2018)「情報通信白書 」
2. 働き方が変わる
18世紀に始まった産業革命は経済成長につながった一方で、機械化によって手工業者らが職を失いました。生成AIに対しても同様の指摘が溢れています。一部は誇張だと思われますが、長期的には大部分は真実であるということを歴史が証明しています。
事務職だけでなく、会計士・税理士といった士業、コールセンターや営業事務など、ほぼすべてのホワイトカラーが生成AIの影響から逃れられないでしょう。一方で現場ワーカーは、AIコンシェルジュがブルーカラーが苦手な計算処理や対話を代替してくれるという意味で、ようやくインターネットパワーの恩恵が届けられるようになるだろう思います。トイレのつまりは誰が直すのか、設備トラブルの緊急対応を誰が対応するのか、といったラストマイル部分でのワークをAIが代替することは難しいからです。
実際、米国では21世紀に入り、ITにより仕事を奪われた旅行会社やコールセンターのスタッフが清掃員や介護士に転職する現象が起きています。
日本でも有効求人倍率※5をみると、「一般事務」は職を求める3人に1人しか求人がありません。一方、「建設」では企業が5人募集しても1人しか応募がない状況です。ホワイトカラーでは人手が余っている職種が多いのに対し、ブルーカラーでは人手不足がすでに深刻な状況にあります。
このように労働市場には巨大なミスマッチが存在しており、ミスマッチは生成AIの普及で拡大する可能性が高いでしょう。こうした労働市場の長期的な圧力により、AI×現場ワークの進化が加速し、ビルメンテナンスのさまざまな業務もAIとのハイブリッドモデルとして進化していく必要に迫られているといえます。
アナログなイメージの強い管理業務やビルメンテナンスがAIによりどう変わるのでしょうか?
上述のようにAIが働き方や働く人の文化を変えるのはほぼ確実ですが、それには時間がかかることが予想されます。
現在、オックスフォード大学インターネット研究所で「Future of Work」を研究し、同大学のマンスフィールド・カレッジに席を置くカール・ベネディクト・フレイ氏は日本経済新聞「AIと人類の未来 知の巨人たちは何を語る?」※6で次のように語っています。
~AIは労働者にとっての脅威ではなく、むしろ創作活動を「民主化」する存在だと指摘する。
AI×現場ワークのハイブリッドモデルにチャレンジし、インターネットの恩恵を現場ワークに届けていくのはわくわくする近未来ではないでしょうか。
5:厚生労働省(2023)「一般職業紹介状況 月度発表資料」
6:日本経済新聞(2023.7.6)「連載企画「テクノ新世」インタビュー編」
AIの進化とマンション管理業界への適用
1. マンション管理の現場課題
数年来、マンション管理業界では早朝ゴミ出し・日常清掃員・マンション管理員の確保が大きな課題となっており、人口構成上も今後ますます需要と供給ギャップが強まることは確実です。業界全体としても「担い手確保・育成」「生産性向上」は、喫緊かつ最重要の大命題となっています。
深刻な人手不足は、マンション管理サービスそのものの質の低下をもたらしています。
例えば管理員による苦情対応ですが、人手が足りず対応が後手後手に回ることが多くなっています。またコスト圧縮による時間短縮と並行して、清掃品質状態の低下による不満も増えているのが実情です。
建物・設備のメンテナンス不足に起因する老朽化も深刻化しつつあります。人材不足で計画的なメンテナンスが後回しにされ、設備の長寿命化を阻害している側面があります。
このまま管理サービスの質的低下が放置されれば、マンションの資産価値そのものの下落にもつながりかねません。
さらに多様化するライフスタイルや価値観の変化、国際化等によって、マンション管理会社とお客様との間にも新たな課題が出始めております。業務改革を進め、コストを抑制しつつ、いかにマンション管理業務の生産性と入居者体験価値の向上を図り課題を解決していくのか、そして事業機会を拡大していくのか、課題も多様化しております。
2. マンション管理の業務(の一部)がAIに置き換わる
こうした中、大きな期待が寄せられているのが、AIによる「AI×マンション管理」の可能性です。
生成AIであるChat GPTの登場により、いままで語られつつも実証実験にとどまっていた「AIマンション管理員」「AI掲示板」「AIによる各種ワーク手配」などが一気に実現性が高まってきたと言えるでしょう。
例えば管理員業務の以下のような各種受付・取次をAIコンシェルジュが代替し、かつ、受付状況や進捗ステータスをフロント担当がスマホで案件管理ダッシュボードできる、そんな近未来が近づいているといえるでしょう。
3. 生成AIの進化
では今までのAIと、最近新たに登場し、すごいスピードで拡がっている生成AIとでは何が違うのか。それでは「ジェネレーティブ」であるという点です。「Generative」という単語は、「生産または発生することができる」という意味です。つまり、人間からのオーダーを受けて「テキスト」を生成する。「画像・動画」を生成する。さらに「アルゴリズム」を生成する、コールセンターの「スクリプト」を生成する、業務生産性を高める「ソフトウエア」を生成する。
AIは、今まで半世紀以上の年月をかけて研究開発が進められてきました。この10数年もさまざまな技術進化が生まれていましたが、昨年11月のChat GPT、いわゆる生成AI(Generative AI)の登場によりAIテクノロジーの進化は別フェーズに入っているといわれています。
それが、今まさに人間の仕事から生活に関わるあらゆる領域において、変革をもたらすものとして多くの人に受け止められているのです。
目の前で、どんどんテキストが生成されたり、3D CGの動画が生成されていく様子を初めて見た人は手品みたい、と思うでしょう。そのくらい生成AIのインパクトは強いものです。
9月25日にはChat GPTに画像認識、音声認識、発話機能がリリースされました。
生成AIが人間の「目」や「耳」「口」に相当する機能を獲得することで、さらに多様で複雑な作業をこなせるようになる可能性があります。
生成AIが人間の「目」「耳」「口」「脳」を持つ
目(文字認識/画像認識/映像認識)
耳(音声認識)
口(音声発話/発話に合わせて口を動かす)
理解(要約する/場面の理解)
表情(感情認識/感情表現)
創造(絵を描く/映像を作る/アイデアを出す)
知識(質問に回答する/プログラムコードにする)
操作(AIを作る)
例えば次のようなキャラクター生成と音声対話、多言語対応も「生成」することができます。マンション管理コンシェルジュとして男性・女性、年齢別、多国籍などニーズに適合したエージェントを活用できるようになるでしょう。
AI×マンション管理導入時の対応例
1.AIコンシェルジュの導入
マンション管理業界が抱える人手不足とサービス低下の問題に、AIが解決の切り札となり得ます。
AIコンシェルジュと呼ばれるシステムをマンションの受付に導入することで、多くの業務を自動化できるのです。Webやスマートスピーカーによる問い合わせ受付、確認事項の住民への通知、トラブル受付などが24時間365日、人手を介さずにこなせるようになります。
【管理員による各種受付・取次業務】
・共用設備トラブルに関するお問い合わせ
・専有部設備トラブルに関するお問い合わせ
・建物不具合、修理、清掃等に関する報告・依頼
・管理規約・使用細則・議事録等の照会
・駐車場・駐輪場の申込申請などの各種申請に関する問い合わせ・書面の取り寄せ
・居住ルールに関するお問い合わせ
住民はいつでも気軽に相談できるので、些細な疑問や要望でも管理組合への負担なく申告いただけます。その結果、有人のマンション管理員は手間のかかる雑務から開放され、必要な業務に注力できるようになるのです。
つまりAIコンシェルジュの導入は単なる業務の効率化にとどまらず、サービス水準の全体的な底上げにも寄与することが期待できます。住民満足度の向上と管理業務の生産性向上を両立できるマンション管理を実現する起爆剤になり得ると言えるでしょう。
2. AIコンシェルジュの対応_各種受付・取次:「自転車置場の年次更新をしたい」
AIコンシェルジュが具体的にどのような業務支援を行うのか、事例を交えてみていきましょう。
まず「自転車置場の年次更新をしたい」という住民からの要望がシステムに寄せられたとします。従来のマンション管理では、管理員が電話や管理事務所の対面で申告を受け付けや料金精算を行います。一連のやりとりに手間がかかる上、管理員の勤務時間内に限定されます。
これに対してAIコンシェルジュなら、WebフォームやAIアシスタントを通じて24時間いつでも更新申請を自動受付できます。確認事項の通知や料金支払いもシステムが代行し、管理員や住民双方の手間を大幅に削減できるのです。こうしたリアルタイム性と利便性こそが、AIならではの大きなメリットといえます。
3 . AIコンシェルジュの対応_近隣トラブル:「上の階がうるさい」
マンションでは近隣トラブルもさまざま発生しますが、こちらもAIコンシェルジュなら対応力が大幅に向上します。
例えば、上階からの音漏れに関する苦情が寄せられた場合を考えます。従来型のマンション管理であれば、まず管理員が電話やメールで内容を確認し、上階住民に連絡する必要があります。住民同士のやり取りに介入する性質上、配慮や手間がかかりがちです。
しかしAIコンシェルジュであれば、トラブル内容をシステムが自動受付して整理し、上階住民にも自動で通知を送信できます。つまり管理員がすべてに目を光らせる必要がなくなり、事態収拾に向けた当事者間の早期コミュニケーションを仲介できるのです。
こうした非対面の橋渡しはAIならではの強みであり、管理員の事務負担を大幅に軽減しつつ、トラブルの早期解消にも寄与できると考えられます。
さらに対人対応が必要なケースにおいては近隣トラブル対応サービス「Mamorroca」と連携し解決を提供しております。
4.AIコンシェルジュの対応_設備トラブル:「水漏れをどこに相談すればいいの?」
マンションでは日常的に設備のトラブルも発生します。例えば部屋からの水漏れ事案を考えてみましょう。この場合、住民としては漏水箇所や対応窓口が分からず困惑することが多いでしょう。
従来のマンション管理では、住民が管理員に相談し、受付をした管理員が水道業者等への問合せ・調整を行っているケースもあります。業者への取次は平日昼間に限定されがちで、水漏れ事案に即時対応しきれないケースも少なくありません。
一方AIコンシェルジュなら、24時間の緊急駆け付けBMクラウドと連携し、配管設備関連の専門業者に即座に取次ができます。漏水拡大の防止と住民の安心感の向上に大いに貢献できることが期待できます。
5. 人にはできないAIの4つの特徴(強み)
AIコンシェルジュは人の管理員には真似のできない4つの特徴(強み)を有していると言えます。
第一に、24時間365日の運用です。定時外でもリアルタイムに対応することで、住民満足度が格段に向上します。
第二に、公平中立な対応力です。人間には感情的な偏りが生じやすい面がありますが、AIにそうした偏見はありません。
第三に、大量のデータを整理しパターン化する力です。ばらばらな申告内容から共通の原因を見出し、対策立案に生かすことができます。
第四に、クラウド連携による拡張性です。建物管理DX「BMクラウド」と完全連携できるため、ビルメンテナンス業務全般の業務フローのデジタル化も実現できます。
この4つの特長こそが、質の高いマンション管理と運営の実現に欠かすことができない要素といえるでしょう。
AI×マンション管理の未来
建物管理DX 「BMクラウド」とAIコンシェルジュ「X」を融合させAI×施設管理の未来を描きます。
マンションは今や社会インフラのひとつであり、社会の縮図と言えます。適切に管理していかないと、将来的に管理不全のマンションが近隣に悪影響を与えるといった社会問題に発展することが予想されます。マンション管理業界が直面する深刻な人手不足は、放置すればマンションの劣化を招きかねません。ひいては日本の重要な社会インフラである集合住宅そのものの老朽化危機にもつながりかねません。
一方でAIの進化は目覚ましく、マンション管理という複雑高度な業務にも対応できるレベルに達しています。AIコンシェルジュの導入によって業務プロセスが劇的に改善し、管理コストの削減とサービス品質の向上を同時に達成できるようになるのです。
AI×有人管理の新たな取組みによって、暮らしを豊かにしていける未来。
新時代のマンション管理業界には、かつてない変革のチャンスが訪れていると言えるでしょう。