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(株)アセットコミュニケーションズ
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マンション管理の「暗黙ルール問題」を可視化する──6人の理事長に聞いた課題と解決策

大手・中堅の管理会社に管理を全部委託している管理組合の理事長経験者にロングインタビューを行った。マンション管理において、規約や禁止事項など“幹”は管理規約や最速で明文化され整っている一方、日々の運用“枝葉”が曖昧や暗黙ルールになりがち。騒音、来客駐車、ベランダ、宅配ボックス、投書、緊急時…「住民の体験」に直結する領域をどう整えるか。6人の理事長・理事へのインタビューをもとに、明文化されている項目/いない項目(暗黙ルール)、理事会が抱える課題と解決策をまとめました。

明文化されていること(多くの物件で共通)

多くの管理組合で以下については規約や細則に明文化されていることがわかった。

  • 民泊は禁止(規約に明記)
  • 規約・細則の改定手順(総会承認/議事録管理)
  • 防災の基本運用(年1回の訓練・避難経路周知)
  • 予約と会計の扱い(来客用駐車・ゲストルーム等はフロントで受付/鍵/料金精算)
  • 周知方法(掲示・ポスティング中心。デジタル通知は未導入か限定)

例:ゲストルームは1か月前から予約可鍵はフロント受け渡し清掃は外部業者

“暗黙ルール”になりがちなこと

その一方で共有部分の利用・マナーに関すること設備・サービスの運用(騒音への対応、ゴミ出しの時間、来客駐車場の予約、ベランダの使い方ルール、宅配ボックスの保管荷物の引取期限、ペットの頭数や確認・審査、入退去の申請などについての運用について)や、管理・手続きの不備(投書・苦情のルール、緊急時の初動対応ルール)が暗黙のルールになっていて、明文化されていないことがわかりました。

共用部分の利用・マナー/ 設備・サービスの運用

  • 騒音:22時以降の「静穏」の基準、掲示→個別→理事会の順番が不統一
  • ゴミ出し:臭気物の前日出し、荒天時の例外、“置き残し”時の連絡先が曖昧
  • 来客駐車:紙の申請+台帳の二重運用でダブり/優先順位が未決
  • ベランダ:喫煙不可は明確、滴下防止・避難ハッチ周辺の線引きが曖昧
  • 宅配ボックス:受取期限未設定→長期占有/私物化/満杯時の運用が不統一
  • ペット:頭数・移動方法(抱きかかえ/カート)・実査が曖昧
  • 機械式駐車場:サイズ超過の個別審査/更新・縮小・撤去の基準未整備
  • 入退去・居住実態変更:未申告が輪番・名簿に影響

管理・手続きの不備

  • 投書・苦情:記名原則や標準フロー(確認→周知/是正)が揺れる
  • 緊急時初動:管理員不在帯の通報順(警備/119/防災盤)が不十分

現場の悩みと必要な打ち手

管理組合の理事長、理事経験者に困っていることや解決したい課題を聞きました。前提として、インタビューを行った管理組合は大手や中堅の管理会社に委託をしています。また、多くの管理組合は理事は「輪番制」で2年ごとに交代をしています。

A. 引き継ぎが弱い

B. 入退去/居住実態の未申告

C. 日常小トラブル(騒音・ベランダ・駐車)

D. 来客駐車の二重運用で混乱

E. 宅配ボックスの長期占有/満杯

F. 紙とメールに埋もれる情報

G. デジタル非対応層と合意形成

H. 機械式駐車場の行方

以上の課題と必要とされる解決策をまとめました。


A. 引き継ぎが弱く“人に依存”
「管理会社の担当者の交代や管理員の不在がある度に情報が引き継がれず、過去の経緯はメール・紙資料を遡らないと辿れません。」
「誰が見ても5分で状況把握」できる台帳や決定履歴が未整備なため、確認に時間がかかる。その場しのぎの対応が増え、同じ議論を繰り返す非効率が生まれています。


B. 入退去/居住実態の未申告
「未申告で所有者の親族が入居している場合や賃貸の部屋の入居者変更が共有されていないことがあり、理事の輪番や連絡網、配布リストが狂います。」
まずは入退去の際に自動で申請が来るように周知した上で、オンライン申告制度を整備し、期限を設けて未申告の場合に自動催促を行う制度などが必要です。


C. 日常小トラブル(騒音・ベランダ・駐車)
「騒音の線引きや注意の段取は案件ごとに判断していて、再発しやすい状態です。」
本来は「掲示→近隣ポスティング→個別是正→理事会審議」の定型が必要ですが、文言や手順が統一されていません。担当者の判断に依存するため、住民の受け止め方にもブレが生じます。


D. 来客駐車の二重運用で混乱
「来客駐車場申請は申請書を出した後に台帳に記入するルールになっていますが、申請書を出さずに台帳にだけ書く人がいるため、ダブルブッキングが発生して対処が必要になる。」
優先順位(例:申請受付>台帳記入)は決まっているのだが周知が行き届かず、現場で都度調整が必要に。結果としてフロント負荷が増し、住民側の不満も蓄積しています。


E. 宅配ボックスの長期占有/満杯

「受取期限が決まっていないため、ボックスが滞留し、繁忙期は常に満杯になりがちです。まれに“私物ロッカー化”するケースもある。

是正の基準や手順が曖昧だと注意しづらくなります。期限・リマインド・回収フローを明文化すれば、混雑とトラブルの多くは抑えられます。


F. 情報が紙とメールに埋没

「規約・細則・議事録が多層化し、最新版や改定点が一目で分からない状況に。必要な根拠条文や過去の決定が即座に検索できず、判断が遅れる・説明が難しいといった課題が発生している。」

検索・差分・根拠提示をセットにしたアーカイブ整備が不可欠です。長年理事を担当している人がいると経験や知識が蓄積されますが、輪番制ではそうはいかないのが現実です。


G. デジタル非対応層と合意形成の難しさ

「光回線やアプリ導入は、費用負担と世代間ギャップで対立が生じやすい。光回線を導入したかったが、戸あたりの負担金額がネックとなり合意できなかった。」

すべてを一気に電子化するのではなく、紙と併存しつつ“まず予約・掲示から”など段階導入の絵が必要。合意形成の道筋が描けないまま議論すると、計画が頓挫しやすくなります。


H. 機械式駐車場の行方

「更新費用が重い一方、車の大型化でサイズ超過の相談も増え、運用が難しくなっています。維持・縮小・撤去・外部貸しの選択肢ごとの費用・秩序・安全の評価軸が曖昧で、決めきれない。」

透明な“採点表”を用意し、住民と同じ物差しで比較できる状態を作ることが鍵です。また、他の管理組合の事例などの情報があれば判断の手助けになることも。

まとめ

いかがだったでしょうか。多くの管理組合の理事経験者から出た言葉は「他の事例をもっと知りたい。」ということでした。機械駐車場を今度どうして行くか、騒音トラブルになった時にどう対処するのが正解なのかなどを一つ一つ考えていたのでは時間も労力もかかります。マンションの個別環境は違っていても同じ地域や同じマンションシリーズでどういった規約や細則を作っているのか等の標準的なデータベースが必要とされています。

また、理事が輪番で回ってくる中で、過去の課題にどう対処したのかというデータベースと検索ツールがあると管理組合運営が効率化できます。理事経験者の個人の知識や経験に留めずに管理組合の情報資産をいつでも、簡単に取り出せる仕組みが必要とされています。